遺言書が偽造されたら? その際の対処法と偽造を防ぐ方法
経営者や資産家を中心に、自身の死後に財産をどうするかを考えて、遺言書を作成される人も多いでしょう。
しかし、せっかく作成した遺言書が偽造されて、自身の望まぬ形で財産が分配されたら困ります。
そこで今回は、遺言書の偽造が疑われる場合の対処法と、そもそも偽造されないためにはどうすればよいのかを解説します。
偽造の疑いがある場合は遺言無効確認手続を
遺言書の作成方法はいくつかあります。
そのなかでも、気軽に作成できる反面、偽造されやすいという難点があるのが自筆証書遺言です。
自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書して押印することによって作成します(民法968条)。
ほかの方式による遺言と異なり、公証人によるチェックは行われません。
また、原本が公証役場に保管される公正証書遺言や証書が封印される秘密証書遺言と異なり、自筆証書遺言は、容易に内容を書き換えることができるという特徴もあります。
そのため、自筆証書遺言が思わぬ形で発見されたような場合には、偽造が疑われることも十分にあり得ます。
自筆証書遺言を発見した場合、偽造が疑われるか否かにかかわらず、遺言書の保管者は、相続の開始(遺言者の死亡)を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に対して当該遺言書の検認を申し立てる必要があります(民法1004条1項)。
遺言書の検認とは、遺言の方式に関する一切の事実を調査して遺言書の状態を確認し、その現状を明確にするものであり、後日の紛争に備えて、偽造・変造を防止し、遺言書の原状を保全する手続です。
もっとも、検認は、遺言書の状態を確認するのみで、遺言の有効・無効について判断されるわけではありません。
そのため、検認手続の過程で自筆証書遺言の内容を確認し、偽造の疑いを持った場合には、別途裁判所において遺言無効の確認を求める必要があります。
この場合、原則として、まずは遺言無効確認調停を申し立て、調停が不調になった場合は、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
偽造を防ぐには公正証書遺言がおすすめ
遺言無効確認訴訟においては、訴訟を提起した側が、遺言書が偽造されたものであることを立証しなければなりません。たとえば遺言書の筆跡が、遺言者の筆跡と明らかに異なる場合には、遺言書は偽造されたという方向に判断が傾くため、専門鑑定人による筆跡鑑定が行われることがあります。
また、遺言書作成当時に、遺言者が病気や認知症で遺言書を書くことができない状態であったにもかかわらず、複雑かつ詳細な内容の遺言書が理路整然とした文章で作成されていれば、遺言書を他人が書いたという方向に判断が傾きます。
そのため、長谷川式認知症スケール(認知機能テスト)の結果やカルテ、介護日誌なども重要な資料となります。
さらに、遺言者と不仲であった人に多くの遺産を与える内容になっているなど遺言内容が不自然な場合にも、遺言書は他人が書いたという方向に判断が傾くため、遺言者と相続人または受遺者との人的関係や交際状況等も重要な判断要素となります。
ちなみに、相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、または隠匿した者は、相続人となることができません(民法891条5号)。
したがって、遺言書を偽造すれば、相続人として相続財産を取得することはできなくなります。
ただし、偽造した者が被相続人の子または兄弟姉妹であり、その者に子があるときは、代襲相続が認められるので、偽造した者の子は被相続人の遺産を受け取ることができます。
また、遺言書を偽造した場合には、刑法上は有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立し、3カ月以上5年以下の懲役が科される恐れがあります。
そもそも遺言書を偽造されないためには、多少費用や手間がかかっても、公証人の立ち会いのもとに作成され、公証役場で遺言書の原本が長期間保管される公正証書遺言を利用することをおすすめします。
また、自筆証書遺言の場合でも、令和2年7月10日以降は法務局での保管が可能になりました。
この自筆証書遺言保管制度を利用することで、偽造や紛失のリスクを軽減することができるでしょう。
遺言書は、自身の財産を望む形で分配するためのものです。遺言書を作成したら、偽造や隠匿を防ぐためにも、正しい保管方法を選ぶことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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